妙義山を筆頭に特徴的な岩峰を連ねる西上州エリアは、薮岩バリエーションには格好のフィールドだが、岩壁登攀にはあまり向かない。
それは、いかんせん、岩が脆いからだ。

この岩峰群の形成には諸説あるが、妙義山と荒船山の中間付近を火山活動の中心としたカルデラ火山によって(本宿カルデラ:群馬県下仁田町)、西上州一帯がその噴出物で覆われ、悠久の侵食を経て、岩峰や急斜面が形成されたというのが概ねの理解だ。

その中でも比較的硬く、登攀対象となりうる岩峰が、荒船山の最高点・経塚山から東に延びる稜線上の毛無岩である。

登山口となる南牧村道場まで、「この先に集落があるのか」と不安になりながら狭隘な道を進み、数軒の家屋の裏のひっそりとした神社の奥から河原に降り、取り付きとなる尾根を目指す。急峻な痩せ尾根に上がる直前まで、整然と手入れされた杉の植林地が続き、この地の重要な産業として大切にされてきたことが伺える。

手入れの行き届いた杉植林地

木立の隙間から時折覗く毛無岩は遠く、アプローチも安易ではない道が続く。毛無岩の基部付近から左に下降して、顕著なU字溝ルンゼの右岸側が取付きだ。
前半は、ザ・薮岩クライミング。主にブッシュでプロテクションを採るので、スリングはそれなりにあった方がいいだろう。

顕著なU字溝ルンゼ

2ピッチで大テラスに上がると、毛無岩の全貌が見渡せ、ここからが本格的なクライミングとなる。核心は中間部の薄かぶりの数手で、このピッチに5.10bがつけられている。確かにホールドは細かくバランシーだったので一瞬躊躇したが、いい位置にハンガーボルトがあるので、プレッシャーはない。立ち込んだハイステップの右足が外れないようにしっかり腰を入れて、かかりのいいホールドを取った。

大テラスから臨む毛無岩

その先も、心許ないリングボルトを交えながらも危険ではない間隔でプロテクションは採れたが、脆い箇所も部分的にある。総じてホールドは細かいため、特にフットホールドの見極めは肝心だ。一見問題なさそうでも確認すると剥離しそうな箇所もあり、フットホールドが欠けてバランスを崩せば立て直すのは困難だろう。

最終ピッチはルート名の由来ともなっている烏帽子岩のコーナークラックを直上する。
カムを持ってきていなかったので、出だしがランナウトして緊張する。C0.5〜1くらいはあった方が良さそう。ようやくリングボルトにクイックドローをかけるが、信用ならない支点なので慎重に登り、中間部でハンガーボルトにロープをクリップして一安心。体の向きを右に左に反転させながら、這い上がると頂上稜線に飛び出した。立体的で楽しいピッチだった。

コーナークラックを登る
終了点からこんにちは

信頼度の高いボルトが打たれ、ルートの情報があるからこそ我々は快適に登攀することができたが、人里離れたこの岩峰に目を付け、グランドアップで開拓した初登者のパイオニア精神には脱帽だ。彼らと比べたら、我々は所詮観光客のようなものかもしれない。

群馬出身の私にとって、西上州はある程度親近感のあるエリアだが、まだまだ知らないことばかりだ。